先日開催された自然経営研究会に参加してまいりました。第4回の今回はネッツトヨタ南国の横田社長のお話をお伺いし、そこから創発されたテーマを元にダイアログを行いました。
ダイアログ自体も有意義なものでしたが、横田社長の長年の経営経験から培われた印象的な言葉が数多くありまして、その中で僕が最も印象に残った「人間力」について触れてみたいと思います。
横田社長が経営の中で大切にされていること
横田社長は採用を特に大切にしていて、今でも採用に携わっているとのことです。その中で、採用基準に関するお話もあり、横田社長の考える採用基準は①人柄、②価値観の合致、③人間力とのことでした。
この中で特に印象的だったのは、「人間力」の定義です。経営者や人事担当者の間においても「人間力」が大事だという人は少なくありません。ただ、「人間力」を定義できている人はあまり多くありません。
この点、横田社長は「人間力とは人間だけが持っている力」だとおっしゃっていました。これはシンプルかつ明確です。僕がこれまでお会いした中で「人間力が大事」「人間力を育てたい」とおっしゃった経営者や人事担当者は100名ぐらいはいるかと思いますが「人間だけが持つ力」との定義をされた方は横田社長含めて2人しかお会いしたことがありません。
では「人間だけが持っている力」とは何か?本来であればここから先もお伺いしたかったのですが、あいにく時間切れとなり、お話をお伺いすることはできませんでした。(ちなみに横田社長はサミュエル・ウルマンの青春という詩を参考にしてくださいとおっしゃっていました)
人間だけが持っている力とは?
ここから先は自分の試論になりますが「人間だけが持っている力とは何か?」について考えてみます。僕は自分なりの経験やこれまでの学びから、人間だけが持つ力とは「自己一致する力」だという仮説を持っています。「自己一致する力」とは、内面にあることと実際の言動を一致させて表現する力というような意味合いです。
この自己一致してそこから表現する力が高ければ高いほど、自分と周囲への影響力が高まり、自然なリーダーシップの発揮につながると考えています。
自己一致することを妨げるもの
一方で人はたいてい、内面にあることと実際の言動にはズレがあるものです。これは自分の心で感じていることが全て相手に伝わるとしたら?とイメージするとわかりやすいかと。多くの方はこの現象に恐れや不安を抱くのではないでしょうか?
ズレが生じる理由はいくつかありますが、ここでは主な2つの見立てを紹介してみます。ひとつは自分の内面を深く掘り下げる習慣がないこと、もうひとつには、自己信頼の欠如によって、自分の内面を出して批判された際の恐れや不安があまりにも大きいことがあると考えます。
ひとつめについては、特に怒りや悲しみなど不快な感情であればあるほど、内面の掘り下げをしない傾向は高まります。怒りや悲しみの奥には痛みがあり、その痛みは自分が本当に大切にしている願いを教えてくれているのですが、その痛みに直面することを恐ろしく感じ、無意識のうちに内面を掘り下げることを避けてしまいます。たいてい、忙しいなどと理由をつくっているものですが、本質的には痛みを扱うことが怖いのです。そしてこの生活が続くと、今後は感情そのものを感じにくい人になってしまいます。
その際に人が本来できることは、一見不快とされる感情に出会ったとき、それを生み出している痛みを受容し、その奥にある願いに繋がり、その願いを起点にして表現することです。
しかし、仮に願いに気づけたとしても、それが心の底から出てきたものであればあるほど、外に表現することに恐れも生じやすいものです。その願いは自分そのものではありませんが、限りなく自分そのものであるように感じられてしまうせいでs、自分を否定されるように信じ込みやすい構造があるからです。
ここを乗り越えるには、自分の心からの願いを表現し、それが他者や世界に受け取られる体験を積むことが必要になってきます。とはいえ、いきなりハードなチャレンジをする必要はありません。みんな日替わり定食を食べたいといっているけど、私はハンバーグランチが食べたい、とかその程度のことからスタートすればいいのです。そして、徐々に自分の深い願いを表現することにチャレンジしていくのです。
まずは3回チャレンジすると決めるといいかもしれません。3回ぐらい試すと、最初はうまくいかなくとも修正を重ねていくことで成功体験が得やすいと思います。実際にやってみると、拍子抜けするぐらいあっさり物事は動くものです。私たちはそのぐらい、他人や世界を怖いものだと扱っています。
自然経営に求められるものとは?
要旨をまとめると、不快な感情に反応的に対処するのではなく、不快な感情から願いに繋がり、その願いから純粋に表現する選択を創造的に行う力こそが「人間だけが持っている力」ではないかと僕は考えています。
そして、自己一致をベースにしたマネジメントや、自己一致力を解放するための人材育成がこれからの経営には求められてくるとも思います。それこそが自然経営に繋がっていく道のひとつになるのかもしれません。