昨日、「経験学習をコアにしたリーダーシップ開発」に関する研究会に参加してきました。こちらは中原研究室OBの関根さんと舘野さんが中心に企画されたものです。僕は年に1回程度ですが、他流試合と学術的な観点のアップデートを兼ねて参加しています。
今回は、先日出版された『経験学習によるリーダーシップ開発:米国CCLによる次世代リーダー育成のための実践事例』をベースに参加者の皆さんと議論を行いました。この研究会は参加者の方の質が高いことが最大のポイントで、今回も研究者の方、人材開発担当者の方、ファシリテーターの方、HRDコンサルタントの方、実務マネジャーの方など多様な方とのディスカッションを楽しんでまいりました。
研究会そのもののコンテンツついてはこちらの関根さんのブログが詳しいので、そちらを参照頂くとして、ここから先は研究会に参加して僕が考えたことをいくつかシェアしたいと思います。
研究会に参加して考えたこと①:概念としての「経験学習」の普及は一線を越えた
経験学習は2010年ごろを境に流行り始めたように思いますが、それから5年以上が経過し、「普及」というフェーズは越えたのではないかと感じています。様々な理由があるとは思いますが、ひとつは学校教育においての「アクティブ・ラーニング」の導入、もうひとつは企業教育における、特に若手層教育、OJT分野における経験学習の応用が大きかったのではないでしょうか?
研究においても「経験学習はどんな要素があるのか?それはどんなプロセスなのか?」などWHATを扱うものや WHYを扱うものが多かった印象がありますが、最近では「どうやったら経験学習が促進されるのか?深まるのか?」といった点に主要な関心が移りつつあると感じています。今回の研究会での議論も実例集がベースだったこともあるかと思いますが、HOWが中心の展開となりました。
これは予想ですが、企業教育を取り巻く実務ベースにおいても今後は「経験学習を応用したケース紹介」から「企業における経験学習は、何が・どんなタイミングで・どの程度促進されるのか?促進した結果、どんな結果がどんなメカニズムによってもたられたのか?」などに実証面に焦点が移っていくと考えています。
研究会に参加して考えたこと②:「経験」の中身については解明されつつある
また、経験学習でよく話題になるのが「どんな経験が必要なのか?」というテーマです。今回読んだ論文の中にも触れられていましたが、こちらについてはここ数年でかなり具体的になりつつある感覚を抱きました。おそらくこのあたりは調査・統計がかなり有効な分野でしょうし「あの能力を伸ばすためには、この経験をどのタイミングで」ぐらいの現場マネジャーが参照できるガイドラインなどは、そんなに遠くない時期に出てくるのではないでしょうか?もちろん万能ツールではないとは思いますが。
研究会に参加して考えたこと③:次なる「経験学習」における探究ポイントは「経験学習のセットアップ」にある
今回、研究会に参加して、個人的な気づきとして最も大きかったのはこの点です。「経験学習がどんなプロセスで行われるのか?」についてはしばしば語られてきましたが、実務経験のある方からすれば、プロセス自体はさほど目新しいものではありません。仕事の中で体験的に知っていたものが理論としてモデル化されているといった印象です。
実務での最大の壁は「人や組織が経験学習モードにいかにして入っていくか?」にあります。実はここについてあまり芯を捉えたものはありません。
松尾先生の研究では「思い」と「つながり」が経験学習のエンジンであるとは言われていますが、実務的にはもう一歩踏み込みが欲しいところです。個人的には「発達段階に応じたジャストフィットした発達課題の提示」と、周囲によるこれまた「的確な働きかけ&サポート」あたりが経験学習モードのカギなのではないかという仮説を持っていますが、果たしてどうでしょうか?
そろそろ経験学習2.0へ進みたい
というわけで、総論としては導入期・啓発期としての経験学習はそろそろ終わりを迎えているのではないかと考えています。そろそろ経験学習2.0としてコンセプトや概念をアップデートしていく時期なのではないかと、今回の研究会に参加して強く感じた次第です。
コメント